ジョブ理論とは?イノベーションを予測可能にする理論を解説!

ジョブ理論とは?イノベーションを予測可能にする理論を解説!

2020.2.7
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ジョブ理論とは何か、知っていますか?
わかりそうで、よくわからない言葉ではないでしょうか。

ジョブ理論を理解し、“ジョブ”を定義することにより、今までにない顧客のニーズや競合他社の捉え方を実現する、事業開発のヒントを得ることが可能になります。

この記事では、イノベーションを予測可能にするジョブ理論について、わかりやすく解説します。

ジョブ理論とは?

ジョブ理論(Jobs To Be Done)とは、イノベーション研究の第一人者であるハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した、「人がなぜそれを買うのか?」という、顧客が商品やサービスを買う行為そのもののメカニズムを解き明かした理論です。

今日、アメリカの多くの企業では、新規事業の立案やサービス改善の場面において、このジョブ理論をベースとしたプロジェクトを進めていくことが多く、盛んに取り入れられています。

ジョブの定義

聞きなれない“ジョブ”という単語ですが、ある特定の状況で人(顧客)が成し遂げたい進歩を“ジョブ”と呼びます
さらに、ジョブを片付ける手段として、人は特定の製品やサービスを消費する、その行為を「雇う(ハイア)」と呼びます

顧客は単に商品やサービスを購入しているのではなく、どのような“ジョブ”を片づけたくて、あなたはそのプロダクトを“雇用”するのか? と、このように比喩的な言い方をすることで、顧客のジョブを発見するという考え方を直観的に捉えられるようになるのです。

顧客の属性(年齢、性別など)、
つまりデータを重視する従来のマーケティングとは異なり、
ジョブ理論では顧客一人ひとりが直面している状況と目指すべき進歩を考慮するため、
より解像度を上げた顧客ニーズを捉えることが可能になる
ということですね。

ジョブ理論のわかりやすい例:ミルクシェイクの“雇用”理由

この理論は私達にとって、普段あまり馴染みのない概念のため、ちょっと分かりにくい部分があるかもしれません。
ここでは、ジョブ理論を理解するための有名な事例である、ミルクシェイクのエピソードを使ってさらに解説をしていきます。

とあるファストフード・チェーン店が「ミルクシェイクの売上拡大」という課題を抱えていました。
このチェーン店では既に、購入者属性を整理し、ユーザーへのアンケート調査を実施した上で、得られたフィードバックをもとに値段・量・味などを改良しています。
それにも関わらず、数ヶ月経っても売り上げに変化はありませんでした。

そこで、視点を切り替え「来店客のどのような“ジョブ”(成し遂げたい進歩、解決したい仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを“雇用”させたのか」を実際に店頭に立って観察することにしました。

観察してわかったのは、午前9時前に1人で来店した客がミルクシェイクを多く購入していたことです。ほとんどの客がミルクシェイクだけを購入し、店内で飲むことなく車で走り去っていきました。
来店客にインタビューをしたところ、早朝にミルクシェイクを買う顧客の多くが「車での通勤中に気を紛らわせるものが欲しい」「昼食までの間に小腹を満たすものが欲しい」という理由でミルクシェイクを“雇用”していたことが分かりました。

これらの目的であれば、他の食べ物や飲み物も候補には上がるものの、運転中に片手で飲めて車内や服が汚れず、他の飲み物よりもストローで飲むのに時間がかかるミルクシェイクが一番うまく顧客の“ジョブ”を片付けることのできる商品だったのです。

この観察とインタビューから、顧客は味や値段に重きを置いているわけではないことが分かりました。
そこでの発見をもとに長持ちするどろっとしたシェイクを開発することで、チェーン店は無事にミルクシェイクの売上を向上させることに成功しました。

また、この話で面白い点は、同じ顧客でも「状況」によって“ジョブ”が変わるという点です。
朝は通勤途中にミルクシェイクを購入していても、夕方には子どもとの触れ合いのために同じミルクシェイクを購入することもあるでしょう。
ジョブが変われば競合相手は全く異なり、朝はベーグルやフレッシュジュース、夕方はおもちゃ屋へ立ち寄ることや家でバスケットボールをして遊ぶことなどが、競合になり得るのです。

このように、「誰が」「何を」ではなく、「どんな場面で」「なぜ」にフォーカスを当てるのが、ジョブ理論のポイントです。
イノベーションを生むために不可欠な要素は、顧客の特性でもプロダクトの属性でもなく、顧客が置かれている「状況」と、その状況において追求したい進歩、つまり“ジョブ”であると言えます。

ジョブ理論への期待

先ほど挙げたミルクシェイクのエピソードからも分かるように、
顧客のニーズは企業が考えていることとは乖離している可能性があります

ビッグデータ革命により、顧客やそれを取り巻く様々なデータの収集や分析は飛躍的に進歩を遂げています。
その傍ら、多くの企業にとって未だにイノベーションは運任せのところが大きいと言えます。
それは、従来のデータ分析を活用するマーケティング手法からは顧客が「なぜ」その選択をするのかについては示すことができないためです。
「顧客AとBの類似性の高さ」「商品AとBのパフォーマンスの属性の類似性」「顧客の75%は商品Aより商品Bを好む」といった形式で相関関係を見出すことしかできないということですね。

一方、ジョブ理論では、顧客がなぜ特定の商品を買うのかという因果関係のメカニズムを明らかにすることができるため、顧客に“雇用”されるための本当の競合相手を見いだすことができます
これにより、イノベーションを加速させていくことが可能になるのです。

既存事業においては、「顧客がどんな“ジョブ”を持っており、それを片付ける状況において自社製品やサービスには何が足りないのか」という観点から、改良案を考えることができます。
また、新規事業の立案においても、「現状の商品やサービスでは片付けられない“ジョブ”は何か」を探ることで、たとえ成熟業界であっても顧客に支持される商品・サービスを展開していくことが可能になるのです。

ジョブを見極めるポイント

それでは、どのように顧客の“ジョブ”を特定していけば良いのでしょうか。

ジョブの特定のポイントとしては、「誰が」「何を」といったデータではなく「なぜ」というストーリーで考えて行く必要があります
特定の状況で進歩を成し遂げようと苦心している人を主人公として、以下の5つの問いに答えながら、短編映画のように考えてみましょう。
ここでは、より良い第一印象のために歯を白く美しく保ちたいと考えている人を主人公にします。

  1. その人が成し遂げようとしている進歩は何か
  2. −「とびきりの第一印象を与える笑顔が欲しい」ユーザーはこの“ジョブ”を片付けるための方法の一つとして、自分の歯を白く美しいものにするための商品やサービスを雇用する可能性があります。

  3. 苦心している状況は何か
  4. −「年に2回歯科医院に通っているのに、思ったほど歯が白くならない」このユーザーは既に歯科医院で定期検診や歯垢除去など、いくつかの手段を講じていますが、うまく“ジョブ”を片付けることができていません。

  5. 進歩を成し遂げるのを阻む障害物は何か
  6. −「歯を白くする歯磨き粉を試したが、効果がない。誇大広告だ」歯科医院の他にも、歯を白くする歯磨き粉も試したものの、効果は出ていません。

  7. 不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動を取ってないか
  8. −「家庭でもホワイトニングできる高価なキットを購入したが、マウスピースを一晩中装着しないといけないし、歯がヒリヒリする」ここでは、ジョブを完全には片付けない商品やサービスに頼っていないか、一時しのぎの解決策を講じていないかを考えます。

  9. その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換え(トレードオフ)にしてもいいと思うものは何か
  10. −「費用や手間をかけずに、専門の歯科治療によるホワイトニングを受けたい」②〜④で挙げた苦心している状況、障害物、不完全な解決策を解消するものとはどのような商品やサービスなのかを定義します。

これらの問いに答えていくことで、顧客の“ジョブ”をより具体化できるようになります

特定したジョブの活用方法

では、ジョブを特定できた場合、実際のビジネスにおいてどのような活かし方があるのでしょうか。ユーザーインタビュー等を実施し、ジョブを特定した後は、下記のようなジョブを活かす方法があります。

方法例1:ジョブに適したプロモーション戦略に変更する

たとえば、冒頭で説明したミルクシェイクの場合、顧客がジョブを雇用している理由は、美味しいミルクシェイクを飲むことではなく、「車での通勤中に気を紛らわせるものが欲しいから」「昼食までの間に小腹を満たすものが欲しいから」でした。
その場合、「美味しそうなイメージ」を押し出すCMではなく、「車の運転のお供の飲み物のイメージ」を押し出すCMを作成することで、より広告効果が見込めるかもしれません。

このように、ジョブを起点とすることで、プロモーション戦略に活かすこともできます

方法例2:ジョブを満足させる新商品を作る

たとえば、パンに混ぜる「重曹」が良い例です。
重曹が、本来の用途である「パンを膨らませる」という用途ではなく、「消臭する」という用途で顧客に使用されていることがわかった場合、ジョブを満足させる新商品である「消臭スプレー」を作ることが考えられます。

まとめ

今回解説したジョブ理論のポイントは以下の通りです。

  1. 特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩を“ジョブ”と呼ぶ
  2. “ジョブ”を片付けるために顧客は特定の製品やサービスを“雇用”する
  3. 顧客の成し遂げたい進歩を可能にし、困難を解消し、満たされていない念願を成就する、つまりジョブを見事に片付ける製品やサービスの提供が、イノベーションを生む

顧客のジョブを理解するためには、ある特定の状況で成し遂げようとしている進歩を機能的・社会的・感情的側面も含めて理解する必要がある。

“ジョブ”や“雇用”といった比喩表現もあり、初めは分かりにくい部分もあるかもしれませんが、うまく活用できると、顧客の求めることをより鮮明に掴むことが可能になる理論です。ぜひ、ジョブ理論を用いて、新規事業の立案や既存サービスの改善に役立ててください。

参考文献・資料
・クレイトン・M クリステンセン(2017)「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」ハーパーコリンズ・ ジャパン